小室哲哉。日本の音楽シーンを解体し多くの創造的な音楽の土壌を作った男


90年代を代表するアーティスト・作曲家、音楽プロデューサー:小室哲哉

img_komuro01出典:http://jaykogami.com/

現在20歳を超えている人なら誰もが小室哲哉を知っているだろう小室哲哉は90年代を中心に数々のミリオンヒットを生み出したアーティストを手掛けた日本の作曲家・アーティスト、音楽プロデューサーです。

小室哲哉さんが手掛けたアーティストといえば、自らがアーティストとして参加しているglobeと、TMNETWORK、そしてプロデュースをした華原朋美、TRF、安室奈美恵、hitomi、篠原涼子、観月ありさなど「小室ファミリー」と呼ばれる彼らは社会現象にまでなりました。

安室奈美恵のファッションを真似する「アムラー」と呼ばれる女性の出現、そしてTRFはダンスブームに火を付けました。小室哲哉が生み出した数々のヒット曲は後に続く日本の作曲家達に多くの影響を与えるとともに、坂本龍一に「小室君は日本人の耳・メロディライン・転調・アレンジ・リズム感・ビート感を教育しちゃった。」とまで言わしめるほど、日本の音楽シーンに巨大なインパクトを与えた人物です。

まさに日本の音楽シーンの解体を行い、その後生み出される創造的なサウンドが生まれる土壌を作った男と言っても過言ではありません。浅倉大介に言わせれば「彼は開拓者」であり、その後の音楽プロデューサーは彼が切り開いた道を次々と辿ったのです。

 

小室哲哉が解体した小室哲哉以前の日本の音楽シーン

小室哲哉が登場する以前の日本の音楽シーンでは歌謡曲が中心でした。歌詞やメロディーを重視し、リズムやアレンジが重視されたヒット曲が流行ることはあまりありませんでした。

80年代のヒット曲と90年代のヒット曲を何曲か聴き比べるだけで、その違いがどれだけ大きいかをすぐに確認することができるでしょう。

小室哲哉はシンセサイザーを多用した打ち込み感の強いサウンドを、聞き馴染みがあまりない日本人の耳にも馴染むような歌詞とアレンジで紹介したのです。これは現在の音楽シーンにまで引き継がれています。

小室哲哉以降も浜崎あゆみ、ELTなど小室哲哉に影響を受けたプロデューサーが手掛けた曲を聞いてみると、彼のサウンドの片鱗を感じることができますし、現在これだけEDMが日本で流行り、抵抗感がなく受け入れられるのも彼に教育された耳の影響が大きいでしょう。

小室哲哉以前の日本の音楽シーンは「アメリカから20年遅れている」と言われていましたが、彼の功績でハウス、プログレッシブなど一時的に最先端に追いつき、恩恵を受けた方は多いでしょう。EXILEなど、ダンスを盛り込んだパフォーマンスをするグループも、彼が普及させたリズムを重視する音楽のお陰で映像による表現が重視され始め、ダンサーが登場する余地を拡大させたと言ってもよいでしょう。

哲哉以前の音楽の良し悪しを言うわけではなく、彼は日本の音楽シーンを一度解体しうるほど強烈な衝撃を与え、その後の日本の音楽シーンに多様性と拡張性をもたらしたのです。

 

小室哲哉自身の創造を分解する

彼の功績を賞賛する人が音楽業界には多数存在する一方で、彼の罪を唱える人達も存在します。

その内容を要約すると「小室哲哉の音楽はお酒のようなものだ」という風に言うことができます。小室哲哉の音楽はリズムの主張が強く、メロディーの繰り返しも多いため、歌詞や音楽の世界観が記憶に残る音楽というよりは、「その時聞いていて気持ちが良い」音楽と評価する人も多く存在します。

現在も活躍する歌手の槇原敬之さんは「ファンは『意味はわからないけどそれを歌っていれば楽しい』とストレス発散の道具にしてしまった」という主旨の発言をしたことがあります。また、プロデューサーがアーティストよりも脚光を浴びてしまう流れ、例えばモーニング娘をプロデュースしたつんくや、AKB48を手がける秋元康、を生み出したのは不幸な流れだと評価する人もいます。

一方で、「聞いていて気持ちいい」を生み出せるという事は「聴き手」の気持ちを理解できるからです。小室哲哉を音楽家としての才能以上に、マーケティングの天才と評価する人も多いです。聴き手となる聴衆をよく理解し、素材となるアーティストの卵をどんな音楽でどんなスタイルで世間に紹介すれば流行るのかを誰よりも知っていたからこそ、ヒットを量産できたのです。

彼の盟友であるavexの松浦勝人氏は「何故売れるのか、何故ウケるのか、何故マーケットに定着したのかと言えば、これは本人も言ってることですが、マーケットを意識した作品作りをしているということが最大の原因だと思います。」と彼を評しています。

彼の更なる強みは量産力です。「ヒットする曲」を「大量に生み出せる」という組み合わせが時代を作ったのです。これは他の例えを用いれば、大きなダメージを与える弾丸を大量に所有している、顧客の心に響くセールストークが溢れるように口から出せるといったところでしょうか。質が数を伴った時に起きるインパクトはとても大きなものになるのです。

時代を感じ状況を見極め、解体と創造に必要な手立てを次々と打つことができる才覚。小室哲哉の場合はそれが音楽でした。彼の功績は後世に渡って語り継がれるでしょう。