もっとも「人間的」な楽曲制作方法である「サンプリング」、そして「チョップ」とはいかなる技法か?


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「パクリ」ではない! サンプリングは、もっとも人間的な楽曲制作技法

あらゆるジャンルの楽曲制作において、サンプリング、およびチョップは欠かすことのできない技法です。ヒップホップは言うに及ばず、ロック、ハウス、テクノ、EDMなど、どんな種類の音楽にせよ、この技法なしで語ることはいまやできません。

今回は、このサンプリング、そしてその重要なテクニック・チョップについてお話いたします。

サンプリングというのは、新曲制作のために、既存の曲の一部を引用することです。

引用するのはイントロの4小節かもしれませんし、ボーカルのハミング、あるいは一番盛り上がるサビの部分かもしれません。

そしてチョップというのは、サンプリングして抜き出した部分を、さらに細かく切り刻み、原型をとどめないほどにいじりまわし、全く別の何者かとして再構築する、その作業と技術のことなのです。

まさしく解体と再創造です。以下、私が実際に楽曲制作するときと同じような流れで、その具体的な手順をご紹介いたします。

 

実際に1曲作ってみる。ギャング映画のテーマの一節を、ラブソングへ再構築

ある映画のサントラの1曲に気になった部分があるとします。

たとえば、ギャング映画。男の渋い歌声に、トランペットが絡むような部分だとします。時間にしてわずか4秒ほどのパートです。この4秒を抜き出します。

この素材をどういじれば面白くなるだろう?

試行錯誤をはじめます。

細かく刻んで、一音ずつに分解してみよう。そして印象的な音だけ抜き出して、順番を変えて並べてみよう。あるいはまとめて逆再生してみよう。全体のテンポを変えてみよう。洞窟にいるような、声をこもらせるエフェクトをかけてみよう。ピッチを上げて、この男性ボーカルの声を女性のような声に変えてみよう。

とにかく自分に心地よいフレーズを作るのです。2小節でも1小節でもいい。この短いフレーズが、まだ見ぬ新曲の基底部分になるのです。

自身で作詞してボーカルも乗せる作り手ならば、このあたりで歌詞のテーマが浮かんでくるかもしれません。ピッチを上げたことによって高くなったトランペットの音が、風のうなりのように聞こえたかもしれない。そこから、「雪山の洞窟で愛しあうふたりのような、衝動的で官能的な曲にしよう」、というテーマが見え、定まってくるかもしれないのです。

自分の納得ゆくフレーズが完成したとします。ここからは自分の手で音を足してゆきます。まずはビート。そしてシンセサイザーを弾き、どんどん音に厚みを出してゆきます。「雪山」「衝動的」「官能的」という曲のイメージに合うような音を重ねましょう。フレーズを膨らませ、展開をつけてゆくのです。ボーカルも乗せてしまっていいでしょう。

やがて、新曲が出来上がります。もうこのラブソングを聴いて、原曲のギャング映画を想起する人はいないでしょう。まったく別の作品に再創造されたわけです。手順などあくまで一例ですが、サンプリング・チョップという手法は、楽曲制作にこのように用いられているわけです。

では、なぜわざわざこんな作り方をするのか?

「雪山」でも「官能的」でも最初から自分で好きに弾いて作ればいいじゃないか?

以下、ご説明いたします。

 

サンプリングしてチョップする一番の理由

このサンプリングやチョップという手法は、アメリカのヒップホップ勢に多用され有名になったものです。
専門的な音楽教育の機会や、高価な機材を買う資金を持たぬ彼らには、それが唯一開かれた楽曲制作へのトビラだったのです。

しかし、教育と金の権化であるような西洋クラシック界でも、実は何百年も前から同じような方法が楽譜上で行われ続けてきました。マーラーもワーグナーもベートーヴェンも。その流れの現代音楽なんかサンプリングしまくりなのです。つまり金や教育の有無が理由ではない。

また、サンプリングという手法には独自の面白みがあります。コウモリ傘とミシンのような思いがけぬ出会いの楽しさであったり、異なる文脈のものを自分の文脈に引きずり込む快感などがそうです。

そしてこの手法が好まれる一番の理由。

それは結局のところ、この手法こそが我々人間が新しいものを生み出すときに用いる、基本的な思考様式だからなのです。

有限である自然のものを解体し、手を加えて、無限の新しいものを再創造する。

発明品や芸術品のように難しい話でなく、毎日の食事ですらそうです。海だの山だのから互いに初対面の素材を集めてきて、解体し、徹底的に加工し、まるで原型をとどめぬ一品を作り上げる。やり慣れてる、というわけです。

このサンプリング(チョップ)という手法は、その意味でまことに人間らしい制作方法なのです。