日本のヒップホップシーンの古き境目を解体したTHA BLUE HERB


thablueherb

出典 http://www.eyescream.jp/

今回は、90年代後半の日本のヒッポホップシーンを語る際に外すことができないグループ、THA BLUE HERBについて紹介します。

 

北海道からメッセージを発信しつづける

THA BLUE HERBは、北海道を拠点に活動をしつづけている、ラッパーのILL-BOSSTINOとトラックメーカーのO.N.Oからなるヒッポホップグループです。

彼らは、日本のヒップホップシーンにおいて、東京/地方、オーバーグランド/アンダーグラウンドという境界線を解体し、新たなシーンの流れを創造したといっても過言ではないグループです。

90年代前半のヒッポホップシーンは、活動場所が東京に一極集中しており、かつオーバーグランドとアンダーグラウンドが明確に分かれていました。

当時のシーンはその状況のなかで勢いを伸ばしつつあったものの、前述の傾向が加速しつづけており多様性という点では硬直していました。そうした風潮のなかでTHA BLUE HERBが登場します。

彼らは、ファーストアルバム「STILLING STILL DREAMING」で、当時のヒッポホップシーン、地方に怒りをぶつけます。

シーンからは隔離されていた北海道という極地から届けていることを強調し、その存在感で地方にも目を向けさせることに成功して東京一極集中の状況を解体させていきました。
 

アンダーグラウンドからの刺客

さらにTHA BLUE HERBは「アンダーグラウンドVSアマチュア」というシングルをリリースし、アンダーグラウンドからオーバーグラウンドに挑戦状を叩きつけます。

この曲から冒頭のフレーズを引用します。

“あんなくだらん物をよくもアンダーグラウンドだと言い切ってくれた

教えてやるよ 勝ち上がるとは何たるかを

ガラス玉を暇つぶしに擦るアマチュアが 気安くこの場所に口を挟むな

その程度でインタビュアー相手に何を語るか 靴の底に入りこんだ小石程の奴か

早咲きでデビュー すぐにぬるま湯のレビュー漬けの 連中はろくに練習台にもならねえ”

この作品は上記のような鋭利なメッセージが込められており、その言葉のインパクトはシーンを揺さぶるには十分なものでした

THA BLUE HERBのこうした精力的な活動により、土地や知名度に関わらずに本物のヒップホップが存在していることを知らしめることになりました。そうして彼らが撒いた火種はヒッポホップシーン全土に広がっていきます。

それまでのヒップホップシーンの硬直した傾向が崩壊を迎えることになり、日本のシーンは群雄割拠の模様を見せはじめることになりました。

もちろん、その他の影響も多いのですが、現在のヒップホップシーンの多様性を語る際に、THA BLUE HERBが立役者であったことは間違いないでしょう。

 

創造と再生の輪廻をつづるリリック

また、THA BLUE HERBのスタイルはILL-BOSSTINOのリリックにも表われています。

破壊があってこそ再生がある。死があってこそ生がある。必衰があってこそ盛者が現れる。

こうした輪廻の概念を詩にしています。特に「知恵の輪」という曲にはこの思想が色濃く刻まれています。この曲から一部フレーズを引用します。

 

“星は光る 数限りなく 必然 死者と赤ん坊がすれ違う

死者は言う「どうか良い人生を」赤ん坊が答える「どうかいい来世を」”

 

循環のサイクルが意味することは、破壊や死といったものの負の側面だけを見つめるのではなく、さらにそれによって生まれてくる再生や命などの正の側面までも見とおすことが大事、というわけです。

こうしたリリックも、THA BLUE HERBのヒップホップシーンに対する凝り固まったものを破壊し、多様性を想像させていくスタンスとは切り離すことはできません。

そして彼らが輪廻の概念を大切にしているのは、自らの経験によって破壊と創造のサイクルの価値を、身をもって知っているからということも大きな理由なのでしょう。