ほっとひと息 「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」の解体と構築


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出典 http://cue.ms/j-news/chef-j-release-day/

面白い映画に欠かせないのはスリル・ショック・サスペンス…。そんな人もいるでしょう。リアリティを重視した手に汗握る展開の映画は見ていて退屈しません。この映画はそんな言葉とは無縁です。暖かく楽観主義的で、見る人によっては退屈してしまうでしょう。

しかし、もしもあなたが人生に疲れていて癒しを求めているなら、この映画ほど適したものはありません

今回は「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」から感じられる、心温まる解体と構築を見ていきましょう。

 

Twitterから見る、時代の解体と構築

この映画を読み解く際、いくつかキーとなるアイテムが登場します。まずひとつめはTwitterですTwitterとは140字の短い呟きを投稿するSNSで、世界中で利用されています。主人公キャスパーがキャリアを失うことの原因にもなったツールです。

キャスパーはシェフとしてレストランに勤めていました。そこにネット上で人気の料理評論家がやってきます。料理評論家はブログでキャスパーの料理を酷評。怒ったキャスパーは慣れないTwitterで評論家に反論してしまいます。当然アカウントは大炎上し、結局キャスパーはレストランを辞めてしまうのでした。

キャスパーが炎上してしまった原因は、Twitterのシステムを理解していなかったことにあります。インターネットネイティブには当たり前の「Twitterのやり取りは全世界にオープン」という基本が、キャスパーにはわかりませんでした。ツイッターのリプライをメールのようなものだと勘違いしていたのです。
その後もキャスパーはインターネットの洗礼を受け続けます。レストランで暴れた動画は瞬く間に全世界に拡散。その影響で再就職もままならない事態に陥ってしまいます。

Twitterによってキャスパーの世界はことごとく破壊されてしまうのです。しかし、TwitterをはじめとするSNSが悪いのではありません。正しい使い方をすれば、Twitterは強力な宣伝ツールにもなり得ます。
それを示して見せたのがキャスパーの息子パーシーです。パーシーはTwitterの扱いに習熟している新生代として登場します。パーシーはTwitterを駆使してキャスパーのフードトラックを宣伝し、Twitterが持つ良い面をキャスパーや観客に示してくれるのです。

この映画では、SNSによる新たな時代の構築とその特性をわかりやすく観客に説明していると言えます。SNSに疎い世代にはSNSの特性を、SNSに習熟した世代には以前の時代の在り方を見せてくれるのです

 

キューバサンドから見る、キャリアの解体と構築

タイトルの通りこの映画にはいくつもの三ツ星メニューが登場します。ひと口に三ツ星と言っても、その内容は大きくふたつに分けられます。

ひとつ目は、キャスパーがレストランで作っていたような、高級な料理です。キャビアやフォアグラ、手のかかるフォンダンショコラ。高級食材をふんだんに使った料理は、人々が広く認める「三ツ星グルメ」でしょう。

ふたつ目は、キューバサンドに代表される地元グルメです。他にもパーシーと一緒に食べているグリルドチーズサンドなど、手軽に食べられる料理が多く登場します。

この変化はキャスパーのキャリアが崩壊することで起きます。つまり、高級料理のキャリアを解体してこそ、絶品フードトラックのキャリアが構築されたのです

もちろんこれはキャスパーが一流の料理人だったからこそできたキャリアの解体と構築です。しかし、自身のキャリアに悩んでいる人には大きな勇気を与えてくれます。何かを解体することは、何かを構築するきっかけとなるのです。

 

フードトラックから見る、関係の解体と構築

フードトラックにはキャスパーと息子のパーシー、そしてキャスパーの部下だったマーティンが乗っています。キャスパーとパーシーは別々に暮らしており、表面上は仲の良い親子です。しかし、仕事にかかりっきりのキャスパーに対してパーシーは内心不満を抱いています。

仲の良い親子に見えたのはパーシーが大人びていたからで、実際は深くわかり合うことができていなかったのです。ふたりはフードトラックでの旅を通し、より親子らしく関係を再構築させていきます。

対するキャスパーとマーティンの関係性は終始一貫しています。マーティンはキャスパーの忠実な部下であり続けるのです。キャスパーがレストランを辞めた後、マーティンはレストランで二番手に昇格します。そのキャリアを蹴ってフードトラックに参加しにやってきます。

パーシーとの関係は構築を象徴し、マーティンとの関係は解体できない強い絆を象徴していると言えるのではないでしょうか?

 

「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」から見る解体と構築についてみていきました。いかがでしたか? この映画の魅力はおいしい料理の数々と期待を裏切らない展開にあると言えます。主人公がピンチになれば、必ず誰かが助けてくれる。そんな観客の機体をそのまま表現する、予定調和といっても過言ではないストーリーは、疲れた心を安らげてくれます。

ちなみに、見ると必ず食べたくなるキューバサンドのレシピは映画公式HPで公開されています。明日のお昼にいかがですか?