007スペクターにおけるジェームズ・ボンドの解体と再構築は成功したか?
超長寿作スパイアクションシリーズ007。
少しでも映画に触れたことのある人ならば、007という番号くらいは知っているものです。近年のボンドを演じているのは英国俳優ダニエル・クレイグ。
金髪碧眼の彼が演じるボンドは、多くの人々を虜にしてきました。しかし、ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドに指名された時、世界中で配役に不満を持つ声が上がったことがありました。
これも踏まえ、007最新作スペクターで行われた解体と再構築を考えていきます。
ダニエル・クレイグが007シリーズにもたらしたものとは?
金髪碧眼。それは今までのジェームズ・ボンドにはない髪と瞳の色でした。たったそれだけ、と考える人もいるでしょうが、50年も続いてきたシリーズの主人公の髪と瞳の色ががらりと変わるのです。
007シリーズのファンにとっては大きなジェームズ・ボンド像の解体と言えました。破壊といっても過言ではないでしょう。
そして今までのシリーズのリブートとして始まったダニエル・クレイグ版ボンドの第一作目が「カジノ・ロワイヤル」です。ダニエル・クレイグは見事にジェームズ・ボンドを演じ切りました。
金髪碧眼のジェームズ・ボンドを再構築するとともに、ジェームズ・ボンドをジェームズ・ボンドたらしめるものは外見ではないことを示したのです。
そんなダニエル・クレイグ版ボンドの第4作目が最新作「スペクター」です。しかし、スペクターは前作スカイフォールのように絶賛というわけにはいきませんでした。批評家の間でも評価が分かれる形となったのです。
ジェームズ・ボンドをジェームズ・ボンドたらしめるものとは?
ジェームズ・ボンド。007。そう聞いたとき、皆さんの頭の中にはどんな単語が連想されるでしょうか?
ウォッカ・マティーニ。女たらしのセクシスト。殺しのライセンス。圧巻のガン・アクション。Qの荒唐無稽な秘密兵器。もしくはQのスタイリッシュな秘密兵器。
おそらく荒唐無稽という単語を思い浮かべた人はダニエル・クレイグ以前のボンドを思い浮かべているのではないでしょうか。
ダニエル・クレイグ版「カジノ・ロワイヤル」「慰めの報酬」「スカイフォール」ではセクシストといったイメージや荒唐無稽な秘密兵器は最低限に抑えられていたからです。
これは世相を反映した物と言ってよいでしょう。世間が「娯楽映画の007」よりも「シリアスで重厚な007」を求めたからに他ならないからです。
その証拠が「スカイフォール」の高評価です。ジョージ・レーゼンビーがジェームズ・ボンドを演じた「女王陛下の007」はシリアスでストーリー性を重視した構成でしたが、007シリーズとしては良くない成績に終わりました。
時代の変遷とともに、求められる007・ジェームズ・ボンド像は変化しているのです。解体と再構築を繰り返してきたからこそ、007シリーズはこれほどまで長く愛される作品群となったのです。
新たなジェームズ・ボンドへ 「スペクター」の挑戦
ここで話は「スカイフォール」よりも「スペクター」は評価の分かれる結果となった理由にたどり着きます。スペクターでは、新たなジェームズ・ボンド像の構築が始まったのです。スペクターでは、ジェームズ・ボンドの女たらしのセクシストな一面やQの荒唐無稽な秘密兵器が以前のダニエル・クレイグ版ボンドよりもはっきりと描かれています。
どちらかと言えば「娯楽映画の007」に近づいたのです。ここで「金髪碧眼のジェームズ・ボンド」つまり、ダニエル・クレイグ版ボンドしか経験していなかった層が戸惑うのです。
旧作から親しんでいた層にとっては原点回帰に見えるものも、ダニエル・クレイグ版ボンド層にとっては時代錯誤にしか見えません。おそらく製作陣はここまで織り込み済みだったことでしょう。
なぜならダニエル・クレイグはあと一本分のジェームズ・ボンド役の契約を残しているからです。
2016年4月現在、ダニエル・クレイグはジェームズ・ボンド役の続投を発表していませんが、製作陣の計画ではあと一本ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドを演じることで新たなジェームズ・ボンド像が完成することになっているのではないでしょうか。
現時点では、新たなジェームズ・ボンドの解体と再構築が成功したか否かは図りかねます。その結果が出るのは、次回の007シリーズです。それまで、新たなジェームズ・ボンド像を想像しながら過ごすことといたしましょう。