低迷するACミランの現状から見る解体と創造


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ヨーロッパのサッカークラブのクラブ運営について、こんな格言があります。

『勝っているチームはいじるな』

シーズン開幕当初に掲げた目標をクリアし、一定の結果を収めているチームに過度な変革は必要ないという意味です。

至極当然とも言えますし、おそらくサッカーに限らず全てのスポーツに言えることでしょう。リーグの昇格、降格やチャンピオンズリーグの出場による収益など結果がクラブの経営に大きな影響を及ぼし、失敗ができないヨーロッパサッカーではより顕著かもしれません。

しかし、逆に負けたチーム、すなわち結果を残せなかったチームはいじった方が良いのでしょうか?

結論からいけば9割がたその通りです。残りの1割はツキのなさなどで勝ち星に見放されるといった不可抗力が関わるケースくらいだと思います。

チームに改革を起こすというのはすなわち一度『解体』し、本当に必要な戦力、スタッフを見 直し、新たなチームを『創造』するという作業です。

当然ながら一筋縄でいく作業ではありませんし、何よりも『創造』するマネジャーに当たる人(サッカーチームでいけばオーナーや監督) に高い手腕が必要になります。現在、この『解体』と『創造』が全く軌道に乗らずにもがいているのが日本代表の本田圭佑が所属するACミランです。

イタリアが世界に誇る名門チームで今何が起きているのか?

このACミランのチームマネジメントの事例を『解体』と『創造』という観点で分析してみようと思います。

 

ミランの問題点

ACミランはイタリア国内ではユベントスに続くセリエ A 優勝回数18回、UEFAチャンピオンズリーグ優勝回数7回を誇る名門中の名門です。

そんなチームに今何が起きているか、最大の問題点はいうまでもなく、チームがかつてのような強さを維持できなくなり、優勝はおろか6位もしくは国内カップ戦の優勝チームに与えられるヨーロッパカップ戦(CL,EL)の出場権すらまともに得られなくなっていることにあります。

これは単純な戦術面の問題だけでなく、マネジメント側の責任も大いにあると言って良いものです。

 

今回はマネジメント部分に論点を絞って紹介します。マネジメント面における最大の問題は、『継続性のなさ』これに尽きます。

このチームはオーナーのシルビオ・ベルルスコーニ(そう、イタリアの元首相です)の現場介入が凄まじく、起用する選手はおろかシステムにまで口を挟んでくるオーナーです。
強い時代からミランのオーナーだったこともあり、結果が伴わないと容赦なく監督の首を切る剛腕オーナーです。

それでも、2000年代前半は名称カルロ・アンチェロッティに率いられ、カカ、アンドレア・ピルロ、クラレンス・セードルフなどの名手を揃え、チャンピオンズリーグ優勝などの栄光を極めていました。

しかし緊縮財政による選手の売却で徐々に戦力が低下していき、今ではワールドクラスのタレントのいない、凡庸なチームに成り下がってしまっています。

それでも戦術の工夫や若手の発掘等で一定の競争力は維持できることは世界中のチームが証明しているのですが、前述のようにオーナーに継続性(こらえ性)がなく、結果が出る前に監督の首を切ってしまうため、チームの『創造』が満足にできない状態です。

これでは勝てるチームが作れないのも無理はありません。

 

ACミランにおける『解体』と『創造』

A Cミランにおける問題点はオーナーの継続性のなさにより、チームの『創造』が満足にできないことである事はわかりました。

では、オーナーが時間さえ与えればチームは再び勝てるようになるのでしょうか?

個人的には私はそれでもまだ足りないと思います。

冒頭で『勝っているチームはいじるな、負けているチームはいじった方が良い』と紹介しましたが、このチームは監督交代で上っ面だけをいじっているだけで、本当の意味での『解体』ができていません。

ベルルスコーニの現場介入は選手起用だけではなく、選手の補強にも及びますが、彼の手法は、基本的に『かつての成功者を再び呼び戻す』というものです。

例をあげればチェルシーに売却したアンドリー・シェフチェンコを呼び戻したり、レアル・マドリーに売却したカカを呼び戻した事例があります。

両者は確かにかつての中心選手で、栄光の時代を知る選手ですが、呼び戻した頃にはすでに怪我や加齢で衰えを見せはじめており、チームを変えることはできずに退団しています。

こうした事例で見る限り、ベルルスコーニの頭の中には、『解体』がなく、上っ面のみを模様替えしているにすぎないということです。

また、こうしたかつての中心選手を呼び戻す手法以外にも、ACミランの補強戦略には、長期的な視野に立った計画性というものがなく、移籍してくるのは一定の結果を出した中堅以上の選手ばかりです。

財政的に余裕のあった時代なら、こうした手法で争奪戦を制し、一流選手を買ってくることもできたのですが、財布に余裕のない今では、連れてこれる選手のクオリティがどんどん下がっているのが現状です。

要するに、補強戦略というマネジメント面では、全く『解体』されておらず、かつての手法をそ れが通じなくなっても愚かに続けているだけに過ぎないわけです。

新しいチームを『創造』するには、補強戦略という面でも一度『解体』し、若手主体のスカウティングや自前の育成などの新たな分野の『創造』が必要だと私は考えます。

 

まとめ

現在のヨーロッパサッカー界は一部のチームが肥え太っていく一方で、資金力に乏しいチームはますます苦戦を強いられているのが実情です。

国別で言えば、スペインはバルセロナとレアル・マドリーのみが豊かであとはジリ貧状態。イングランドとドイツは比較的どこも裕福ですがイン グランドはオイルマネーで潤うチェルシー、マンチェスター・シティが資金力では抜けていて、 これにマンチェスター・ユナイテッドを含めた3チームとその他のチームの間に明確な差が存在します。ドイツはバイエルンが圧倒的であとはどんぐりの背比べ状態です。

一方でイタリアはまともなのはユベントスぐらいであとはどこも青色吐息状態。中にはパルマのように破産してアマチュアから出直しになったクラブも存在します。

資金力のあるクラブとそうでないクラブで選手の取り合いをして勝てるはずがなく、自ずと”残り物 ” を買うようになり、徐々に獲得できる選手のクオリティが下がっていく。

こうした時こそ、監督の腕の見せどころなのですが、クラブの事情がそれすら許してくれない状態が今のACミランを取り巻く環境です。

ACミランが陥っているのはまさにこの状態で、半ば必然だったのかもしれません。

 

本田圭佑は実に大変な時期にチームに加入している状況です。彼は自らオーストリアのクラブを 経営しているくらいですから、マネジメント面における『解体』と『創造』についても自分の考えを持っていそうですね。
私はいずれ本田が(選手としてではないかもしれませんが)ミランというチームを何らかの形で救ってくれるような気がして、期待せずにはいられません。