「銘菓八ツ橋に隠された秘密?!」知られざる箏曲界の先駆者「八橋検校」とは?


img_koto

街のあらゆる場所から歴史の匂いを感じ取ることの出来る、日本最大の観光地の一つである京都。近年では外国人観光客の数も増え、その素晴らしさは今や世界中に知られています。

そんな京都で必ず買って帰る人気のお土産と言えばなんでしょう?
「豆餅」「ちりめん山椒」など美味しいお土産は数多いながら、やはり定番と言えば「八ツ橋」です。

八ツ橋にも2種類あり、最近では中にあんこやクリームの入った「生八ツ橋」と呼ばれる方が人気ですが、それよりさらに古い歴史を持っているのが、堅焼きで細長い、ニッキが香る煎餅の八ツ橋です。

この八ツ橋、実はある1人の歴史的偉人を偲んで作られています。

それが「八橋検校(やつはしけんぎょう)」です。それまでの箏の概念を解体し、新たな箏曲のあり方を作り上げた彼は、一体どのような人物なのでしょうか?

 

類まれなる才能でスピード出世

八橋検校は今からおよそ400年ほど前、慶長19年に現在の福島県いわき市で生まれたとされています。目が不自由だった彼は、幼少から三味線を持たされ、その道を志すようになります。

当時、盲目の人々にとって生計を立てる手段は主に楽器を片手に平家物語を弾き語ったり、現在でいう鍼灸師となって仕事をすることでした。

青年となり、江戸に出た彼は箏曲の流派の一つである筑紫流の師「法水」に弟子入りし、箏曲の修行を始めます。元々三味線の筋も良かった彼は2度の上洛の末、ついに25歳という若さで、当時盲人の役人としては最高の「検校」という位を手にします。

 

格式高い箏から、親しみやすい箏へ

現在では箏は単独で弾かれることも多いのですが、検校が若かりし頃、箏は皇族などの身分の高い人々の間で親しまれていた雅楽で用いられる楽器の一部でしかなく、しかもあくまで控えめで伴奏的な役割しか持っていませんでした。

検校が初めて現在の箏と出会ったのは、若かりし頃に筑紫流という流派の師である法水に出会ったことがきっかけでした。

筑紫流の箏は元々雅楽の箏を、寺院歌謡と呼ばれる曲に合わせて伴奏するもので、特に世間一般に普及していたわけではありませんでしたが、検校はこれに目をつけ、誰でも弾くことができるように、腕を上達させることができるように、新たな箏の先駆けを作り上げたのです

様々な調子を作り上げる

現在、箏を弾こうと思うとまず調弦(チューニング)を行わなければなりません。13本の糸の音を箏柱(ことじ)を移動させ、それぞれ決められた音に作り上げるのが調弦ですが、検校はこの調弦にいくつかの種類を作り出しました。

「平調子」「雲井調子」など様々な調子があり、現在でも楽譜の一番最初に指定された調子に調弦にすることで、楽譜通りに弾いた時にようやく曲として成立するようになっています。

検校が開発した調子の多くが三味線の音階に合わせたものとなっており、これによって三味線が箏と合奏できるようになり、ますます箏が庶民に親しまれるようになります。

段物や組歌を作り上げる

それまで箏単体で弾ける曲がなかったため、検校は箏だけでも引くことのできる「段物」「組歌」といった曲を開発しました。

例えば段物の中で最も有名なのが「六段の調べ」です。名の通り6個の章からなる楽曲で、徐々にスピードアップしていく聞き応えのある曲になっています。また、「みだれ」という段物も非常に有名ですが、こちらもかなりスピード感のある曲となっており、弾くまでには鍛錬が必要になります。

組歌はすでにある詩に曲をつけたものとなっています。

当時は楽譜もありませんでしたが、師から弟子へ弾くことによって受け継がれ続け、現在でも楽譜として形に残され、弾かれ続けています

 

現代人が受ける「検校革命」の恩恵

それまで箏と言えば「雅楽の箏」で、上流階級の人々や修行を行う僧侶たちに親しまれているものでしたが、検校の取り組みによってこの概念は大きく覆り、一般市民に広く親しまれるようになりました

現在では習い事の種類も豊富になりましたが、一昔前は習い事と言えば茶道・日本舞踊、そして箏で、現在でも多くの人々が箏に親しみを持ち、近年では教育基本法改正の影響もあってか、授業で、箏の授業を取り入れている学校も増え、子供達にも演奏される機会が増えました。

箏の良さと言えば何と言ってもその音色ですが、それ以外にも、手をかけて大切にすれば数十年もの間使いつづけることができるという点、年を重ねても楽しむことができるという点で非常に優れた楽器と言えます

そんな箏も、八橋検校の普及に対する情熱がなければ、私たちの手に届くことはなかったかもしれません。

箏というと「なんだか習うのが難しそう」「費用もかかりそうだ」そんなイメージを持っている方もいるかもしれませんが、実はピアノを習うぐらいの授業料で習える場合もあります。

気になる方はこの機会に是非、箏を習ってみてはいかがでしょうか?