バンドサウンドからの脱却〜本当の変化を遂げたBUMP OF CHICKEN〜


img_bump_of_chicken

出典 http://www.bumpofchicken.com/

「天体観測」「カルマ」などの数多くのヒット曲を生み出し続け、日本のロックシーンを引っ張り続けているBUMP OF CHICKEN。

結成から22年を迎え、ますます進化し続けるロックバンドです。デビュー前から現在まで、数多くの作品を作り続けてきた彼らですが、音楽性が変化するに従い、戸惑いや批判の声が続出したことも事実です。

今回は彼らの歩みや変化、そしてこれからの音楽シーンに彼らが及ぼす影響について考察していきます。

 

素朴で親しみやすい「僕のバンド」

冒頭でも紹介したヒット曲、「天体観測」この曲を機に彼らは人気に火が付き、多くのファンを獲得していくことになりますが、彼らにとっては天体観測のヒットは通過点に過ぎません。

彼らはその前からコアなファンを獲得していき、デビュー前の楽曲である「ガラスのブルース」が収録されたデビューアルバム「FLAME VEIN」には、荒削りでシンプルな構成のサウンドに、非常にメッセージ性の強い歌詞を載せた楽曲が収録されています

 

楽曲の素朴さやメッセージ性の強さはそのままに、コンセプトアルバムとしての要素を盛り込み、FLAME VEIN発売の1年後に2ndアルバム「THE LIVING DEAD」が発売されます。

この2枚のアルバムの特徴は、何と言っても「素朴で親しみやすい」ということ、また非常に強い「少年的」なこだわりを持ったアルバムであるということです。

キャッチーなメロディーラインの上に、何かを訴えたい、何かを強く伝えたい、といった意思がアルバムの隅々から感じられるようになっています。

誰しもが若い頃抱えるであろう悩み、途方もない悲しみ、葛藤や怒りなどのマイナスな感情を丁寧に描写しつつ、自分の足を奮い立たせるような歌詞が何より特徴的です。

 

結成から現在まで、ほとんどの歌詞をボーカルの藤原基央さんが手がけていますが、彼自身にも人生において様々な葛藤があり、リスナーに向けて書かれているように見える楽曲も、実は彼自身のために書かれている部分が多いにあるようにも見受けられます。

この時期のBUMP OF CHICKENは、思春期の少年が「誰にも教えたくない」「自分だけをこっそり支えてくれるバンドであってほしい」と思う気持ち、BUMP OF CHICKENメンバーの「僕が思うバンド」という気持ちが混ざり合い、それぞれの視点で「僕のバンド」という形が作られていました

 

磨かれていくダイヤモンド

FLAME VEINやTHE LIVING DEADに引き続き、冒頭でも紹介した「天体観測」を収録した3rdアルバム「jupiter」や、4thアルバムとなった「ユグドラシル」と、演奏技術が向上していくばかりでなく、楽曲自体にも幅の広がりが見られるようになります

単純に楽器の数が増えるといったような幅の広がりも見られますが、具体的に言えば、「車輪の唄」に見られるようにそれまでに使われてこなかった楽器を使う、「レム」のようにあえてアコースティックな雰囲気に仕上げるといった、バンドサウンドにとらわれない方法で楽曲が作られていくようにもなっていくのです。

 

では肝心の歌詞についてはどうか?というと、こちらも引き続き芯の通ったメッセージ性が強い歌詞ですが、1st、2ndアルバムとの大きな違いは、自分に向けて書いているように見受けられた歌詞が、より外に向けて書かれるようになったという点です

jupiterに収録されている「ベル」という曲を例にとってみましょう。

「僕の事なんかひとつも知らないくせに 僕の事なんか明日は忘れるくせに
そのひとことが温かかった 僕の事なんか知らないくせに」

一見自分の事を激しく主張しているようにも見られますが、実はこれは電話をかけてきた相手の「元気?」と尋ねてきた声に、心からありがたいと感じ、相手にそれをこっそり伝えたいと思っている様子が伝わってきます。

もちろん、以前から歌詞の中に出てくる相手に対して感謝を伝える歌はあったものの、この曲からは以前にも増して安定し、表現力を増したバンドサウンドに加えて、歌詞の表現方法も巧みになり、歌詞の製作者である藤原基央さん自身の中身も大人になったように感じられます。

 

この時期はBUMP OF CHICKENというバンドが、それまでダイヤモンドの原石であった彼らが様々な方面から磨きをかけ、ダイヤモンドとしての魅力を発揮するような時期であるとも言えます。

3rd・4thアルバムが発売されたこの時期は、バンドサウンドはもちろん、歌詞にも磨きがかかった、ダイヤモンドのような時期とも言えます

 

ありとあらゆるこだわりを解体、次世代のファン層を獲得

5thアルバムの「orbital period」を最後に、BUMP OF CHICKENの特徴は、その素朴さやまっすぐさというよりも、それまでに聞かれなかったエレクトロサウンドなどを取り入れたり、ボーカロイドと共演してみたり、それまでの彼らの素朴なバンドサウンドはあまり聞かれなくなりました。また、歌詞もより深く、詩的なものになり、直接的な表現はことごとく避けられるようになりました。

 

また、活動についても、地上波での露出を「お茶の間で評価されたくない」と言い、一切の民放のテレビ出演を断り続けていた彼らが一転、積極的にテレビ出演をするようになります。ファンにとって特に衝撃的だったのは、音楽番組への出演でした

楽曲や活動の方向については、ファンも賛否両論で、時には「もうBUMPじゃない」「もう聴こうとは思えない」といった厳しい声が聞かれることもありました。

一方ではその変化を歓迎するように、エレクトロサウンド馴れした若者層がBUMP OF CHICKENの新しいファンとして取り込まれました。

 

新しい彼らも、古い彼らも、どちらが良くてどちらが悪いなんて比べようがありません。実際に彼らの意思とは別に音楽業界の情勢は大きく変わりました。

実際にボーカロイドとの共演に対しては当初戸惑いがあったとテレビインタビューで答えています。彼ら自身も変化に対して、試行錯誤を繰り返し、自分たちの中に落ち着けているという印象です。

インターネットの発達で、CDを購入しなくても、手軽に音楽が楽しめるようになったということや、一般的に求められる音楽が変わったということも、彼らの楽曲にも大きく影響しているということは間違いないのではないでしょうか?

とはいえ、彼らは信念として大切にしていることの一つに、「全ての歌は自分の子供で、人に届けるために生まれてきた」というものがあります。新しい曲ができたからと言ってかつての曲をライブでやらない、というわけではなく、デビューの前からの歌い続けてきた曲を今でも大切に歌い続けています

新しい曲をきっかけに、古い曲を辿っていった若いファン層が、音楽シーンに新たに素朴なバンドサウンドを求め始めるかもしれません。

 

まとめ

いつの時代も変化に対応し、自らを順応させる力のあるものが生き残っています。

もちろん今まで自分たちが築き上げてきたものを全て壊して、新しいものを作り上げるには相当な精神力が必要となります。

しかしその中でも大切になるのは、これだけは決して譲らないというものを、あの名曲「ダイヤモンド」のように「ひとつだけ ぎゅっと抱えて離さない」ということなのかもしれません。

自分たちが歌詞で言った通り、大切なものをひとつだけ持って離さない姿勢を貫く姿勢も、長年に渡って若者を中心に幅広い年齢に支持される要因になっているのではないでしょうか