ズートピアで訴えられる細やかな解体への願い


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出典 http://cinematoblog.hatenablog.com/entry/2016/05/19/200000

 

ディズニー映画近年最高峰との呼び声も高い「ズートピア」

あなたはご覧になりましたか?綿密に構築された世界観とその深いメッセージ性に、世界各国で好評を博しました。

今回はズートピアに込められたメッセージを、解体と再構築という観点から3つに絞ってみていきます。まだご覧になっていない方も、この記事の観点に注目してぜひご覧ください。

 

1.人種差別は解体できるのか?

今回ズートピアが掲げた最も大きなテーマは「人種差別」と言ってよいでしょう。

現実では国籍や宗教、肌の色といった違いがズートピアの世界観では種族の違いとして表れています。悲しいことではありますが、偏見や差別は世の常です。

「ウサギは警官にはなれない」主人公であるウサギのジュディに、両親はそう言います。

それはズートピアの世界観の中では当たり前のことなのです。ウサギは農作物を作って暮らすのが当たり前なのです。「どんなに頑張ったって、駄目なものはある」ジュディの両親は娘への心配も相まって、警官になりたいというジュディの夢を否定します。ジュディの両親はすでに諦めてしまっているのです。きっと、ジュディの両親にも幼いころには農夫以外の夢があったのでしょう。

しかし、ウサギは農夫になるものだという偏見を受け入れる道を選んだのです。偏見を受け入れるのは簡単なことです。もうひとりの主人公であるアカギツネのニックも、受け入れた過去を抱えています。

○○は○○らしく。「らしい」とは何でしょうか?ウサギはウサギらしく。キツネはキツネらしく。

それは現実の世の中にも存在しています。白人は白人らしく。日本人は日本人らしく。そんな同調圧力が解体された時、人種差別は真の意味で解体されたといえるのではないでしょうか。

 

2.「理想郷」という概念の解体と再構築

「ズートピア」は、作中に出てくる大都市の名前です。「ここでは誰もがなりたいものになれる」そういわれている、動物たちの理想郷です。

ニックはここで育ちました。ニックは幼い時の体験から、ズートピアはそんな場所ではなくキツネはキツネらしく生きるしかないと考えています。一方ジュディはズートピアに行けば、なりたい自分すなわち警官になれるのだと憧れを抱いて田舎からやってきます。

しかし、頑張って警官になったジュディは現実を突き付けられます。ジュディが憧れていたような警官の仕事ではなく、任されるのは簡単な仕事ばかり。確かに警官になることができましたが、それはジュディが望んだものとは程遠いものでした。

ここで一度ジュディはニックと同じようにズートピアに対する理想を解体されます。そして事件に巻き込まれる中で、自身にすら失望しズートピアを去ってしまいます。

私たちはしばしば「アメリカンドリーム」とか「上京して道を開く」などと夢を見ます。ディズニーは今回残酷なまでにその「理想郷」という概念を切って捨てました。
行くだけでなりたい自分になれる場所など、ないのだと。

では、なりたい自分になるには?それはジュディが身をもって伝えてくれます。

ただ、行動することであると。

努力し、なんど失敗してもあきらめなければどんな場所でも道は開ける。場所など関係なのだと、理想郷の概念を再構築しています。理想郷は場所ではなく、行動によってできる者なのです。

 

3.ちりばめられた性的少数者へのメッセージ

ジュディが引っ越してきたアパートのお隣はうるさいカップル。このカップル、実は異種族間同性カップルではないかと言われています。

ディズニーが公式に言及したわけではありませんが、このようなマイノリティがさらりと描かれています。

隠れることなく一緒に買い物袋をもって帰宅し、口論をし、それでも一緒にいるお隣さん。それに対し詮索も何もせず「うるさいお隣さん」として受け入れるジュディ。

マイノリティが当たり前に受け入れられて欲しい。実社会でLGBTsブームと言われている今ですら、彼らが声高に権利を主張しなければならないという現状です。そんな現状を解体し、誰もが当たり前に受け入れられる社会の構築を目指す。そんなメッセージが込められているように思えます。

また、人気歌手シャキーラが声を当て日本語吹き替えではAmiが声を当てたズートピアの人気歌姫ガゼル。この歌姫も実は雄の角を持っています。ガゼルもまた、トランスジェンダーとして当たり前に受け入れられているのかもしれません。作中では一度もガゼルの角が雄の物であることに触れられません。

これほどにまで綿密な世界観を構築したディズニーですから、何らかの意図があることは明らかでしょう。

 

ズートピアで訴えられる細やかな解体への願いと題してお送りしてきましたがいかがでしたでしょうか?

細やかな、と書いてある通り、こちらで上げた以外にもこの映画にはたくさんのメッセージが詰まっています。まさしく大人から子供まで老若男女その他すべての人が何かを感じ取れるのではないでしょうか。