フランスの絶対王政の「解体」は、一人の男の「創造」から始まった


Chateau_de_Chenonceau

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貴族が作った白亜の城、シュノンソー城

フランス、ロレーヌ地方にはシュノンソー城という美しい城があります。

15世紀に建てられた邸宅がその後、フランス王ルイ15世の持ち物になり、代々の王が受け継ぎ、何度も改築されました。

そしてアンリ2世の代になると彼は改築により美しくなったこのシュノンソー城を年上の最愛の愛人ディアーヌ・ド・ポワチエに永遠の愛と共に送りました。

ディアーヌは、王の愛に応えるようにシュノンソー城をこよなく愛し、城の改修工事を行いより美しい城へと生まれ変わらせたのです。

しかし、アンリ2世が馬上試合の最中、事故で亡くなると今まで王に見向きもされなかった王妃カトリーヌがディアーヌに自分の持ち城シューモン城との交換を持ちかけました。

もはや後ろ盾のない愛妾は、王妃に太刀打ちできる身分ではありません。ディアーヌは城の交換を了承し、城を後にしました。その後のディアーヌは、自分の領地で余生を過ごしたそうです。では、王妃カトリーヌはどうなったか?彼女は自分の息子3人をそれぞれフランス王にし、そして亡くしました。

二人の女の一生は、すべてフランス王家のために費やされたのです。

このように女同士の泥沼を見てきたシュノンソー城ですが、実はフランス革命が起こる鍵を握っていたということをご存知でしょうか。

 

啓蒙思想をはぐくむ楽園の城

1740年、代々の王家の城であったシュノンソー城は、王族により売り出されクロード・デュパンという大地主の持ち物となりました。時代の波が少しずつ、変わってきていることを人々は感じていたのでしょうか。

大地主のデュパン氏は子息に高い教育を求め家庭教師として、29歳の男を雇います。男は、ここでクロード・デュパンの夫人、ルイーズに出会います。

資産家の娘であったルイーズは7歳年上の美しく知性豊かな女性で彼女の周りにはいつも才能豊かな男たちがいました。

啓蒙思想家のヴォルテール、社会学の父モンテスキュー、著述家ベルナール・フォントネル、劇作家で小説家のピエール・ド・マリヴォーが出入りするサロンは、ルイーズのサロンは、さながらシュノンソー城に新たな息吹を吹きかけるものでした。

美しい女性ルイーズとその家族と過ごす日々は、男にとってまさに楽園だったでしょう。

知的好奇心を掻き立てる人々との出会い、心から尊敬し愛する女との出会い、彼は毎日が満たされ、人生でもっとも幸福な時間を味わうことになるが、蜜月はある日突然終わりを告げます。

男が思い余って尊敬する夫人に熱烈な恋文を書いてしまったのです。知性溢れる尊敬できる女性への恋は、彼は幼い日に病で亡くなった母の面影を見出していたのでしょうか。

しかし、愛する人への恋文は彼には諸刃の剣。それが元で男は解雇され、楽園のような美しい城から追い出されることになりました。

恋という名の林檎を食べた男は、どのような想いで城を後にしたのでしょう。

 

古きものは去り、創造はやがて新しい世界を呼ぶ

男の名はジャン・ジャック・ルソー。

フランス革命で人々が叫んだ「自由・平等・友愛」のスローガンを導入した人と言われています。

ルソーは、元々は時計職人の息子で幼いころに母を亡くし、父親に捨てられたという過去を持っている人でした。その後、さまざまな職につきますが、長く続かず20歳のとき、貴族の夫人の愛人となりここで学問を身に着けます。

学問を身につけ、デュポン夫人のサロンに出入りしていた彼は、シュノンソー城を出たとしてももう名の知れた文化人となっていたことでしょう。

彼は早速パリへ行き、哲学・学術研究書などを手がけます。

彼が書き上げた「エミール」は子供の個を認めた画期的な教育論として、「新エロイーズ」は貴族の夫人と家庭教師の純愛不倫を描き、「告白」では彼自身の自分の反省を憂い、「人間不平等起源論」では、絶対王政であった18世紀にあって人間の不平等というテーマを論じ、「社会契約論」は、市民の権利というものをあげ、その後の社会を変えるきっかけをもたらす書物となります。

特に1761年に書かれた「新エロイーズ」は、一躍ヨーロッパ一のベストセラーとなり、貴族、市民と身分に関わらず多くの人々に読まれました。

その内容は気高い貴族の女性と年若い家庭教師との道ならぬ恋物語で、死して結ばれることを願うというものでした。

見果てぬ恋と身分制度への不満、それらがルソーの才能を開花させたのでしょうか。

ルソーは、フランスで起こる動乱を見ることなく、1778年に亡くなりました。

フランス革命が起こるのはその1年後。絶対王政が解体され、自由の名の下に市民による国の創造が始まり多くの血が流れるのです。

人は自然の中では自由である、といったルソー。

「すべてのものは、造物主の手から出たときは善であるが、人間の手の中では悪になる」(エミール)

これは神により選ばれた王たちの時代が終わりと人間である市民たちが作る世界の始まりを意味する言葉だったのかも知れません。