キュビスムにみる絵画描法の「解体」と「創造」


img_cubism00

20世紀最大の画家として名高いパブロ・ピカソといえば、誰もがキュビスムという言葉を思い出すことでしょう。

キュビスムはそれまでの絵画とはまったく違う構成で描かれており、芸術界に衝撃を与えました。美術史においては実験的な意味合いも強く、現代美術に大きな影響を与えたといわれています。
それは描く対象を「解体」して、キャンバスの上に新たな形を「創造」する手法だったのです

 

キュビスムを生み出した二人の画家

キュビスムは、二人の画家によって創始されました。
始まりは、ピカソが1907年に制作した『アビニヨンの娘たち』とされています。5人の裸婦を描いたこの作品は、アフリカ彫刻の影響による大胆な歪曲描法と、ポスト印象派の巨匠セザンヌの作品から学んだ構成法を取り入れたもので、キュビスムの片鱗を感じさせる作風でした。

この作品を見たピカソの友人であり画家でもあったジョルジュ・ブラックは、その手法の可能性を感じ取り、自身でも制作を始めます。

キュビスムという名称を誰が考案したのかについてははっきりしていませんが、ブラックが1908年に描いた『レスタックの家々』を見た画家が「小さなキューブ」と評したことが発端となったようです
この2つの作品は、後に「セザンヌ的キュビスム」の代表作と言われるようになります。
この時期、ピカソとブラックはセザンヌの影響を色濃く受けつつ、対象の単純化、立方体化を模索しました。
二人の画家は共に協力してキュビスムの手法を探求していきます。

 

キュビスムは対象を解体して再構成する手法

ではキュビスムとは一体どんなものをいうのでしょうか。
簡単に説明すると、対象を様々な視点から「解体」して、画面の上に再構成して絵を「創造」する手法です。

それまでの絵画は14世紀のルネサンスで成立した遠近法で描かれるのが一般的でした。ある一視点からみた空間を表現する描法が、数百年に渡って常識となっていたのです。

キュビスムは、この固定観念に真っ向から立ち向かいました。時間的な変化も含めてあらゆる方向から見た対象の形を、画家の考えで二次元的に組み合わせて絵として表現したのです。
それは絵画の構成と形態における革命とも言える発想の転換でした。

 

キュビスムの探求と現代美術への影響

ピカソとブラックは共に1909年から1911年にかけて、まず対象を徹底して解体していく「分析的キュビスム」を突き詰めました。

この頃は、細かく解体された部品を複雑に組み立てたような構成で、色彩も単調なので、見ただけではなにが描かれているか分からない難解な作品ばかりです。ブラックの『ポルトガル人』やピカソの『マンドリン奏者』などが挙げられます。

1912年から「総合的キュビスム」と呼ばれる時期になると、構成と表現法の追求を行っていきます。色彩が豊かになり、新聞や楽譜、トランプといった平面図形や文字を取り入れた作品が多く描かれました。

その過程で、実物の新聞や楽譜を切り抜き、画面に直接貼り付ける技法が生まれます。これがパピエ・コレ、すなわち「コラージュ」の始まりです。コラージュも後の芸術に大きな影響を与えていきます。

作品としてはピカソの『ギターと楽譜』、ブラックの『果物皿とグラス』などを見ると、構成もすっきりと落ち着き、色彩も豊かで明るくなっているのが分かります。

img_cubism01

出典 http://matome.naver.jp

1914年になると色彩と装飾がさらに豊かになっていきます。ピカソの『少女の肖像』は緑色を基調にした表現力豊かな作品で、この時期の代表作となっています。

この後ピカソとブラックはキュビスムから離れ、それぞれ自分の作風を磨き上げていくことになりますが、この画期的な手法は絵画だけでなく、彫刻や建築、写真、デザインなど、多くの芸術家に影響を与えました。

対象を見たままに再現するのではなく、作者の意思に基づいて再構成するキュビスムは、芸術をより自由に表現できるように開放したのです。

 

キュビスムは絵の対象を「解体」し、思うままに再構成して独特の美をキャンパスの上に「創造」する画法です。そして同時に、絵画における遠近法という固定観念を「解体」することで、美術全般に通じる新しい表現法を「創造」した、美術史上の革命でもあったと言えます。

パブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックという二人の画家は、絵画の世界だけでなく、現代美術全体に自由な発想と豊かな表現法をもたらしました。
このように「解体」は新しい発展性のある「創造」を生み出すきっかけになるのです。

【参考サイト・文献】
■高階秀爾 監修(2002)『増補新装 [カラー版]西洋美術史』美術出版社.
■ニール・コックス(2003)『岩波 世界の美術 キュビスム』岩波書店.