カースト制度の解体による「IT大国」インドの創造


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出典 http://www.sankeibiz.jp/macro/photos/140922/mcb1409220500004-p1.htm

 

世界には依然として身分制度が根強く残る国や地域があります。しかし、そのような身分制度の多くは近代化やグローバル化の波には逆らえず、徐々に変わりつつあることも事実です。

それでは、インドのカースト制度がどのように「解体」され、新しいインドがどのように「創造」されつつあるのかを見ていきましょう。

 

インドのカースト制度とは

カースト制度とはヒンドゥー教における身分制度のことです。実は、カースト制度は1950年に憲法により公式には廃止されていますが、実際には現在に至るまでヒンドゥー社会に深く根付いています。

カースト制度の軸となるのが「ヴァルナ」と呼ばれる身分制度です。ヴァルナは「バラモン」(僧侶)、「クシャトリヤ」(王族や戦士)、「ヴァイシャ」(平民)、「シュードラ」(労働者)の4つに分類されます。このほかに、ヴァルナに属さない人々もいます。これらの人々は「アチュート」と呼ばれ、不可触賤民と和訳されます。

そして、同時に「ジャーティ」と呼ばれる職業ごとの階級区分にも属します。ジャーティはインド全体で2000~3000に分かれていますが、すべてのジャーティには厳格な序列が定められています。ジャーティが高いほど清浄、低いほど不浄だとされています。

ヴァルナとジャーティはそれぞれ世襲され、生まれながらにして就ける職業が規定されます。「いま自分が置かれている身分は前世の行いによるものであり、現世の身分において懸命に生きることで来世の身分を高められる」と信じられているため、憲法で廃止されてもなお、カースト制度が根強く残っているのです。

 

カースト制度の解体への動き

かつては公的な書類にカーストを記入する欄があることが一般的でしたが、インドの近代化の進展によってやがてなくなりました。また、差別が残る現状を打破しようと、アチュートを中心に教育機関への入学や、企業への就職における優先枠を設けることが憲法によって定められています。それでも、カースト制度の根本的な解体には至っていません。

しかし、近代化とグローバル化により風向きが変わりました。カースト制度の既存の枠組みに当てはまらない「新産業」がインドにもたらされたのです。その代表格となったのがIT産業です。

IT産業は既存のジャーティに当てはまらないので、ヴァルナやジャーティに関係なく能力さえあれば、誰でもIT関連の職業に就けるのです。そして、差別を受けていたカーストの若者たちは世襲の職業には就かずに、こぞって都市部にあるIT産業への就職を目指しました。このようにして、徐々にではあるものの、都市部を中心にカースト制度が形骸化してきているのです。

 

そして新しいインドの創造へ

カースト制度を解体する動きは、結果的にITに強いインドを創造しました。

実は、インドはもともと、とりたてて近代産業が発展していたわけではありませんでした。例えば、19世紀末の時点では国民の99%が農村に暮らし、自給自足の生活を送っていたという統計もあります。

そして、イギリスの植民地時代の終盤では、産業化の遅れや世界最低レベルの平均寿命や識字率の低さのせいで、世界の最貧国のひとつとなっていました。イギリスからの独立を果たした1947年から数十年にわたり経済成長のための方策に力を尽くしますがなかなか結果に結びつきませんでした。

1990年代に入り、IT産業化の波がインドにも押し寄せたことで状況が変わります。イギリスの植民地となっていた経緯から英語力が高いこと、そして伝統的に数学に強いことに加え、カーストの解体を目指す若者の勢いが合わさって、インドは世界有数のIT大国となり驚異的な経済成長を果たしたのです。

一部の予測によると、2050年までにインドの経済規模は日本を大きく上回り、アメリカに匹敵する世界第3位の経済大国になるとまで言われています。

 

インドに古来より根付いているカースト制度は、差別に苦しむ人たちの力により解体され始め、その結果、世界有数のIT大国としての「新しいインド」が創造されつつあります。

このように、強い意志を持っておこなわれた解体の先には新たな価値の創造が待っているのです。