解体によって洗練される歴史
解体は大きく分けて二種類のものに分けることができます。
一つ目は、新しい可能性を生み出すための解体。
二つ目は、解体のそれ自体が創造となっている解体。
それぞれには、新しい目的のために行われるか、それ自体が目的になっているかという違いこそありますが、本質的には一緒で新しい物を創りだそうという考えが根底にあります。一般的には、軌道修正のための解体である一つ目が広く知れ渡っていますね。
というわけで今回は、まだみなさんに馴染みの薄い後者の解体の一例として、「バリアフリー」について取り上げて行こうと思います。
バリアフリーと建築の歴史
バリアフリー(英語: Barrier free)とは、対象者である障害者を含む高齢者等の社会的弱者が、社会生活に参加する上で生活の支障となる物理的な障害や、精神的な障壁を取り除くための施策、若しくは具体的に障害を取り除いた事物および状態を指す用語である。
「設備やシステムが広く障害者や高齢者などに対応可能であること」をさして英語では「アクセシビリティ」(accessibility)と呼ぶ。それに対して、「バリアフリー」(barrier free)は建物の段差を取り除くことなどのみを示す。Wikipediaより直接引用
つまり、解体することによって新しく何かを創りだすのではなく、解体そのものが目的となっていることがわかります。
ワシントン大学建築学科名誉教授であるフランク・チングは、「建築を創る行為」というものは、問題を解決する、またはデザインをする過程であると語っています。
どんなデザインの過程でもその第一歩は問題とされる条件を認め、そこに解決策を見出して決めていくことが重要なのです。
そもそもデザインとは恣意的なものなので、目的達成のための努力と言いかえることもできます。
時を遡ること18世紀、この時代は啓蒙主義思想が広がりを見せた時代で、絶対主義王政を基礎づけるイデオロギーが機能していました。その啓蒙思想によって建築の本質が思弁的に追及された結果、誕生したのがアールヌーヴォーです。アールヌーヴォーは装飾美術建築で、ゴシック、バロック、ロココ様式等の派手で優美なデザインが特徴的なものでした。
しかし、時代とともに洗練され、結果的に合理性と近代性を追求したアールデコへと変化していきます。
特に注目してほしいのはアールデコスタイルのポスターで、19世紀初頭から抽象化されていったポスターは次第にパーツごとに解体され、より抽象的なデザインへと至りました。それによって視認性を向上させる効果が生まれ、人々の視線を集めることができたからです。
巨匠カッサンドルが、ポスターは絵画ではなく、告知する機械であると断言しているほどです。
さらに洗練さは加速し、ついにデザインはモダニズムへと進みました。合理性と機能性を可能な限り追求し、かつては最も尊重された装飾性を切り捨てたこのスタイルは、現代の都市でも多く取り入れられています。
なぜなら、鉄筋コンクリートやガラスを使用し、直線や平面で構成されているために悪目立ちすることが少なく、そこに国籍を選ぶことがないからです。その普遍性によって、数多くの国から愛されているのです。
洗練によって生まれた普遍性
以上でバリアフリーについてと建築の歴史について記してきましたが、その内容が類似している点にお気づきでしょうか。
両者とも、多くの人が不自由なく高機能な建築性を活用できるよう、無駄をそぎ落として洗練されていっているのです。
つまり、余分なコストや障害を解体することによって新たな建築を生み出してきたのです。
そこには、時代が求めていた工業化による生産性や、まごころによる気遣い、優しさが内在しています。時代の変化に対応する解体、困っている人の障害を取り除くための解体、いずれにせよ、解体とは、思いやりと洗練によって成り立っているのかもしれません。
参考文献
建築のかたちと空間をデザインする フランク・チング著