「大逆転」 キャリアの崩壊と栄華は紙一重!?その差は解体にあり


出典 http://ifi.ie/

今回ご紹介する映画は、「ビバリーヒルズ・コップ」や「ドリームガールズ」でおなじみのエディ・マーフィーと、「ゴーズトバスターズ」で知られるダン・エイクロイドが共演した1983年のコメディ映画です。

80年代前半、大戦後の熱気と活気渦巻く時代の影には格差や差別がありました。そうした影の部分を明るく取り上げながらも深いテーマを問いかけてくる意欲作です。

今もなお続く差別問題を考えるとき、ぜひこの作品を思い出してみてください。実にシンプルな答えが提示されています。

 

人は生まれか?資質か? 潜む人種差別の解体

主人公のウィンソープは先物取引で才能を発揮する白人の好青年。ハーバード大学出身の秀才で、美しいフィアンセにも恵まれています。一方のバレンタインは、道でベトナム負傷兵のふりをして物乞いをする青年でした。生まれは貧しく、教養もありません。

そんなふたりを見て、ウィンソープが所属する会社を率いるデューク兄弟はある賭けを思いつきます。それは「人は生まれで決まるのか、それともその人の資質で決まるのか?」というもの。

さっそく金に物を言わせてデューク兄弟は実験を始めます。ウィンソープを陥れ会社をクビにし、フィアンセからも振られるように仕向けたのです。バレンタインはデューク兄弟に拾われ、すべてを与えられます。初めははしゃいでいたバレンタインも次第に独自の視点で市場を読み解き、才能を示し始めるのでした。

さて、バレンタインの出自を言うとき字幕では「生まれ」という言葉が使われていますが、実はこの部分は原語版では「ニグロ」という表現が使われています。「ニグロ」とは、黒人を差別するときに使われる用語。つまり、デューク兄弟の賭けの本当の意味は「黒人は白人と同じ能力を有しているのか」であったとも捉えることができるのです。

めきめきと頭角を現していくバレンタインの能力はウィンソープにも勝るとも劣らない素晴らしいものでした。しかし、デューク兄弟は実験の結果が分かったことに満足し、バレンタインを元のホームレスに戻そうとしたのです。

「人は、生まれではなく資質だ」という結果が出たにも関わらず、生まれで人を判断するというデューク兄弟の矛盾は滑稽ですが、現代でもよくある構図です。冷静に考えれば、バレンタインをそのまま留め置いてウィンソープも呼び戻すのが社にとって最も利益のある行動です。

しかし、デューク兄弟はそれを考えることもせず、迷うことなくバレンタインを捨てふたりの立場を元に戻そうとします。つまり、バレンタインはデューク兄弟の「黒人は差別されるべきだ」という価値観を解体するまでには至らなかったのです。

 

解体されたウィンソープの偏見

白人であるデューク兄弟の価値観の解体は失敗に終わりましたが、同じ白人のウィンソープはこの不幸な経験の中で見事己の偏見を解体して見せてくれました。

ウィンソープとバレンタインの出会いはまさしく事故。ふたりは偶然ぶつかってしまっただけでした。しかし、黒人は危険だという思い込みがあったウィンソープは、ぶつかっただけのバレンタインをかっぱらい(ひったくり)だと誤解してしまうのです。

その後、デューク兄弟の策略ですべてを失ったウィンソープは娼婦のオフィーリアのもとへ転がり込みます。初めは娼婦という職業に眉をひそめていたウィンソープでしたが、オフィーリアと暮らしその気高さや優しさに触れることで、次第に偏見を解いていきます。

自身が今まで知りもしなかった世界や、そこに生きる人々。そして落ちぶれた自分自身を通して、ウィンソープは自身の偏見を解体することに成功しました。だからこそ、再びバレンタインに出会ったとき、バレンタインが言う事の真相を受け入れることができたのではないでしょうか?

 

解体こそ新たな創造の礎 解体できた者できなかった者の明暗

物語終盤、ウィンソープとバレンタインは力を合わせてデューク兄弟への復讐を企てます。物語中何度か示されている通り、ウィンソープとバレンタインの洞察力はデューク兄弟よりもはるかに優れているのですから、デューク兄弟に勝ち目はありません。

なにより、デューク兄弟は人を使う事しか知らないのです。自分たちが第一で、ルールや道理は金でどうにかなると思っている差別主義者には、使える駒も残りません。こうしてデューク兄弟は自身の偏見を解体できなかったばかりに、そのキャリアを崩壊させることになるのです。

一方のウィンソープとバレンタインは、執事のコールマンや娼婦のオフィーリアといった「使われる立場」の人々と協力し、デューク兄弟への復讐を見事成し遂げ大金を手に入れるのです。

偏見の解体。それこそがこの物語の核となるテーマだったのではないでしょうか。

 

人種差別や男女差別、職業差別…。現代でも大きな問題をふんだんに取り込んでいるにも関わらず、説教臭くない明るいコメディに仕上がっている作品です。終盤、列車内での大立ち回りは見ものですよ。

余談ですが、どうしてもCGを使ったリアルな動物に慣れてしまっているので、初めてこの映画のゴリラを見たときは少し戸惑いました。明らかに人が入っている動きをするんですよね……。本物のゴリラとして見るのか、人が入ったゴリラとして見るのか、少々悩みましたが、これも80年代の味ということで。