「リトルプリンス 星の王子さまと私」 名作を解体と創造で解き明かす


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ゾウを飲み込んだウワバミの絵や、箱に入った羊の絵。「星の王子さま」は、私たちに目に見えないものの大切さを説いてくれる絵本です。幼い頃に読んだ方も多いでしょう。

小さい頃に読んだけれど、よくわからなかった。この映画はそんな方に見て欲しい映画です。「星の王子さま」のメッセージはそのままに、絵本のその後を創造することで、大人への強いメッセージも含んだ作品に仕上がっています。

今回は「リトルプリンス 星の王子さまと私」にまつわる解体と創造を3つの視点からご紹介します。

女の子の自我を創造した飛行士さんとの交流

主人公の女の子は、将来のために勉強を頑張る女の子です。進学校に進むことを何よりの目標としていましたが、面接試験で「どんな大人になりたいのか」という質問に答えられず失敗してしまいます。

普通の人ならここで「自分はどんな大人になりたいのだろう?」と考えることでしょう。しかし、進学校に進むことが第一の女の子とその母親はすぐに学区内へ引っ越すことで進学を実現します。

つまり、この親子にとって面接は自分を見つめなおす機会ではなく、ただ求められる答えを言えるかどうかのテストに過ぎなかったのです。

親子が揃ってこの調子で、女の子には友達もいません。勉強の邪魔になるからです。こうして女の子の心は知らず知らずのうちに、母親が言うことが全てだと感じるように凝り固まっていたのでした。

そこに風穴を開けたのは隣に住む飛行士さんです。飛行士さんは文字通り女の子が住む家に風穴を開けます。これは、女の子の世界に風穴が開いたことのメタファーだと受け取ることができます。

初めてできた友達によって、女の子の心は次第に変化していきます。母親の言いつけを破ってみるなど、自主的な行動が増えるのです。母親に言われるがまま、母親が望む良い子であり続けることをやめ、自分が何をやりたいかを考え実行するようになるのです。

言いつけを守る子供が良い子とされる事が多い今の社会。しかし、この映画ではそんな風潮に真っ向から疑問を投げかけています。そしてこの疑問は、サン=テグジュペリが「星の王子さま」で投げかけた疑問でもあるのです。

大人と子供の境とは? 解体される大人たち

「おとなは、だれも、はじめは子どもだった」とは、「星の王子さま」の冒頭にある献辞の言葉です。いつから子供は子供であることをやめて大人になってしまうのでしょうか。単に年齢の問題ではなく、本作や「星の王子さま」では、大人を「奇妙なことをする人々」として位置づけています。

例えば、所有している星を数えては増やし数えては増やすビジネスマン。何も持っていないのに威張る王様や、従順であることが良いことだとする教師。

「星の王子さま」に登場する奇妙なことをする大人たちはオーバーに描かれていることもあり、自分に当てはめて考えることは(見栄も邪魔して)難しいかもしれません。しかし映画では、それを女の子の母親に投影して表現しています。

女の子の母親は計画魔で、生活のすべてをきっちりと計画し人生までもを管理しようとしています。自我が芽生えた女の子に、それは奇妙な大人の姿として映るのでした。

女の子の母親のように、自分では気が付かなくても奇妙な面を持っているのが大人なのかもしれません。

対して大人なのに子供のような存在として描かれている飛行士さんは、社会生活ではたびたび警察のご厄介になる困った人です。飛行士さんこそ、普通の大人からすれば「奇妙な面を持った人」に見えることでしょう。

しかしこの映画の文法で言えば、飛行士さんはまるきり子供なのです。そんな子供だったからこそ、子供なのに大人だった女の子の心を解体し、子供へと成長させることができたのです。

「星の王子さま」 その後を創造する

本作の最も野心的である点と言えば、ただ絵本を膨らませて映画にするだけではなかった点でしょう。本作では「星の王子さま」をストーリー中に織り込み、その後の物語を描いて見せています。

幼い頃に絵本を読んで、王子さまが星に帰ることができたと信じていた人には少しショッキングな内容かもしれません。実は私もそのひとりです。しかし、それこそこの映画が狙っている反応であると考えられます。どこか映画を子供向けとして見ていた大人は、女の子が星の王子さまと出会った瞬間に女の子に感情移入してしまいます。映画を当事者として感じることができるようになるのです。

その後の創造によって、この映画は大人に向けてより強いメッセージを持ったのではないでしょうか。ある意味では、大人向けのアニメーション映画と言えるでしょう。原案である「星の王子さま」のように、大人になってから見ると意味が深くわかる映画に仕上がっています。

 

今回は「リトルプリンス 星の王子さまと私」についてみていきました。いかがでしたか? 昨今大人向けアニメーション作品が多く作り出されていますが、この映画は原案の絵本同様に大人になってからも大切にしたい一本です。

声優陣が豪華なのも見どころのひとつ。なにかと話題になる芸能人吹き替えを多用した作品ですが、本作においてはそれがうまく機能しています。やさしい絵本のような俳優たちの吹き替え音声が、この作品の世界観をより豊かに表現してくれています。一見の価値ありですよ!