映画「キング・アーサー」によるアーサー像の解体と創造が興味深い!



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日本で半ばファンタジーな伝説にまでなった英雄というと、草薙剣のヤマトタケルノミコトとか、鬼退治で有名な源頼光、源平合戦の源義経、真田十勇士の真田幸村などがいます。

ヨーロッパならおそらく第一にアーサー王が挙がるのではないでしょうか。

6世紀のブリテンを舞台にしたアーサー王と円卓の騎士たちの物語は、剣と魔法、精霊や聖杯がからむファンタジーものの源流ともいえる物語で、何度か映画化もされています。

そんなファンタジー風味が強いアーサー王物語を、斬新な視点で描いた映画が2004年の「キング・アーサー」です。

その内容は今までのアーサー王のイメージを解体し、新たな魅力を創造したといえるでしょう。

 

現実にいた?アーサー王のモデルとなった人物

「キング・アーサー」は2004年に発表されたアメリカ映画です。

題材は前述したようにアーサー王伝説ですが、その内容は従来のものとはかなり異なります。

一説ではアーサー王のモデルではないかと言われている「ルキウス・アルトリウス・カストゥス」を主人公にして解釈し直した、歴史ものとしてのアーサー王物語なのです。

アルトリウスが生きていた時代は西暦2年頃と言われていますから、アーサー王伝説の舞台となる6世紀とは数百年の隔たりがあります。また、アルトリウスは王ではなく古代ローマの軍人で、退役後に地方長官になった人物でした。

このような史実から、アルトリウスの人生がそのまま伝説になったのではなく、アーサーというキャラの雛形になったと考えられています。

映画「キング・アーサー」は、ローマ軍の傭兵隊隊長であるアルトリウスがブリテンの先住民族であるケルト人たちと手を結び、侵略者であるサクソン人と戦うという歴史映画です。

ですので、剣はあっても魔法はでてきません。

 

今でとまったく違う、ローマ軍人としてのアーサー

ストーリーの始まりも今までのアーサー王伝説とはまったく違います。
アーサー王といえば選定の聖剣エクスカリバーを引き抜くシーンが定番だと思いますが、「キングアーサー」では、それはありません。ファンタジー要素は皆無といってもいいでしょう。

アルトリウス(クライヴ・オーウェン)と、傭兵隊の騎士たちは15年に及ぶ兵役を終え、やっと軍務から解放される日を迎えようとしていました。

そんなギリギリのタイミングで最後の命令が下されます。城壁の外に住んでいるローマ人貴族を救出するという危険な任務です。
なぜなら城壁外には強力な軍事力を誇る侵略者サクソン人や、ブリテンの先住民族ウォードのゲリラが横行しており、一度外に出れば命の保証はない状況だったからです。

そんななか、自由を勝ち取るために救出任務にでたアルトリウスたちは、ウォードの攻撃、サクソン人との遭遇戦などいくつもの危機を、仲間を失いつつもくぐり抜けて生還します。

しかし、その救出作戦においてローマの真実を知ったアルトリウスは、理想と現実に翻弄されてしまうのです。
ローマをとるか、独立してブリテンを守るのか。アルトリウスは悩みます。

そんな折に、サクソン人の本隊が城壁に迫っていました。
兵役を終えた仲間の騎士たちを送り出し、1人城壁に残るアルトリウス。

強大なサクソン軍を前に、アルトリウスはどうするのか。
ウォードの指導者マーリンの思惑。自由と友情の間で迷う騎士たち。悠然と迫るサクソン軍。

物語はクライマックスを迎えます。

このラストの戦闘シーンは迫力もありますが、アーサー王伝説を知っていると驚く結末になっているので、ぜひ実際に見てくださいね。

 

新しく人間臭いアーサー王の創造


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このように「キング・アーサー」は剣と魔法のファンタジーというよりは、ローマとサクソン人との戦いを背景にした歴史ものか戦記ものといった内容で、従来のアーサー王をイメージしているとまったく違う内容に驚くことでしょう。

兵役で部下になった傭兵が円卓の騎士の代わりです。
有名な最高の騎士ランスロットも、有能な部下にして親しい友人といった感じですし、他のメンバーも騎士というよりは歴戦の戦士という方が近いでしょう。
名誉や忠誠といった騎士要素はなにもなく、兵役が終わるのを心待ちにしている兵士のような立ち位置です。

アルトリウスもまた一軍人に過ぎませんから、中間管理職のようなもので、ローマ本国の命令は絶対です。
そして、戦争の中でローマが理想とかけ離れていることを知って、なんのために戦ってきたのかと苦悩します。

これはもう伝説の王アーサーではありません。現実に翻弄されつつ、正しい道を選ぼうと悩む軍人アルトリウスの物語なのです。

ではなぜタイトルは「キング」なのか。それは映画のラストで語られます。

 
このように映画「キング・アーサー」は今までのアーサー像を解体し、人間味あふれる新しいアーサー像を創造したといえます。
ファンタジーではなく架空歴史モノの映画として楽しんでくださいね。

ちなみに2017年6月に「キング・アーサー 聖剣無双」という映画が日本でも公開されました。
こちらはファンタジー感あふれるアクションムービーです。名前が似てますから間違えないように気をつけましょう。比べてみると面白いかもしれません。

 
【参考文献/サイト】
・井沢元彦(2004)『井沢元彦の英雄の世界史』廣済堂出版.
・トマス・ブルフィンチ(1993)『新訳アーサー王物語』角川書店.