アニメ映画の常識を破壊する?! 「ハッピー・フィート」


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出典:http://keywordsuggest.org

一見、ペンギンたちが歌い踊るファミリー向けミュージカルアニメ映画に見える「ハッピー・フィート」。しかし、監督は「マッド・マックス」を世に送り出したジョージ・ミラーです。この方が監督したのですから、ただの楽しい映画で終わるわけがありません。

今回は「ハッピー・フィート」を3つのセクションに分けてご紹介します。急転直下の展開はペンギンのスケートさながら。振り落とされないように注意してご覧ください。

 

皇帝ペンギンは歌うもの? 初めて個性を認めてくれた母親の存在

皇帝ペンギンは父親が卵を温め、その間に母親が海へ行って子供へ与える餌をたっぷりとため込んできます。マンブルも例にもれず、卵から孵って初めて目にしたのは父親でした。初めての世界にうれしくなったマンブルは、その小さな足でタップダンスを始めます。

しかし、父親は踊るマンブルに戸惑い、踊るなと𠮟りつけてしまうのです。そんなマンブルの個性を初めて認めてくれたのは母親でした。初めは戸惑っていた母親でしたが、次第にダンスこそがマンブルの歌なのだと認めるようになっていったのです。

マンブルはここで自己肯定感を構築することができました。どんなに創造力が豊かでも、自己肯定感がなければそれを生かすことは難しいでしょう。

 

仲間たちの価値観を解体するマンブルのダンス!

仲間とはぐれてしまったマンブルは、アデリーペンギンたちに出会います。ここでもマンブルは自身のダンスを肯定してくれる存在と出会うことができました。5羽のアデリーペンギンたちはマンブルのタップダンスを認め、それを使って女の子を誘うまでして見せたのです。

自身のタップダンスが求愛につながるとは思いもしなかったマンブルにとって、これは大きな自信につながる出来事だったのではないでしょうか。

そしてマンブルは自身の群れへと帰り着き、タップダンスで群れの歌姫である幼馴染グローリアに求愛。マンブルのタップダンスとグローリアの歌声は見事なハーモニーを生み出し、若いペンギンたちはマンブルのダンスをまねて踊りだすまでになったのです!

素晴らしい芸術を創造することで、マンブルは偏見に打ち勝つことができました。

普通のファミリー映画なら、ここで終わるか、あるいは強敵を歌やダンスで退けてハッピーエンドでしょうか。しかしそこはジョージ・ミラー。一筋縄ではいきません。

せっかくグローリアと思いを通わせかけたマンブルでしたが、ダンスを気に入らない長老たちによって魚が減ったことの責任を押し付けられ、群れを追放されてしまうのです。

 

観客は突然当事者に。現実世界への挑戦

群れへ戻るために魚が減った真の原因を探すマンブル。たどり着いた先で、マンブルはエイリアン(人間)による乱獲が原因であることをついに突き止めます。しかし、マンブルは人間の漁船を追って漂流し、水族館で暮らすことになってしまうのです。

水族館での暮らしは寂しいものでした。次第にマンブルは心を失ってしまいます。心を失ったマンブルに届いたのは、人間の女の子がガラスをノックするリズムでした。マンブルの心は音楽を忘れてはいなかったのです!

元気を取り戻したマンブルは、環境調査用の発信機と共に群れへ戻ります

ここでジョージ・ミラーが成し遂げたこととして素晴らしいのは、現実と空想の絶妙なコラボレーションです。フルCGで描かれ歌い踊るペンギンたちは、どう見ても空想の産物。しかし、マンブルが保護されGPSと共に群れへ戻るまでのプロトコルは現実のもの。

一気に現実味を帯びるストーリーに観客は少し戸惑いますが、すぐに「この映画は楽しいミュージカル映画なのではなく、実は真剣に環境問題を訴えている映画なのだ」ということに気が付きます。

空想と現実の垣根を解体することで、手ごわいイメージの環境問題に触れてもらうことに成功したのです。

 

今回は映画「ハッピー・フィート」をご紹介しました。中盤までの楽しい王道ミュージカルから一気に環境問題へと切り替えていく手法は見事。もちろんそれまでに伏線が張り巡らされているので、観客は一気に引き込まれてしまいます。

今夜はペンギンたちの楽しい歌とダンスを楽しみながら、じっくり環境問題に思いを馳せてみては?