大量の銀がまき起こした?封建社会の「解体」と近代経済発展の「創造」


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現在、貴金属といえば金やプラチナですが、実は長きに渡って商業上の取引に使われていたのは銀でした。

古代では金よりも価値があるものとされましたし、近代にいたるまで高額決済は銀によって行われています。銀は経済の基盤を形作っていたのです。

しかし16世紀にヨーロッパでは銀の価値が大暴落し、後世「価格革命」と呼ばれる出来事が起こりました。この事件によって、銀の価値が変化しただけでなく、ヨーロッパの社会そのものが大きく変わっていきます。

それは従来の封建社会の「解体」と新しい近代経済の「創造」でした。

 

ヨーロッパにおける銀の価値

銀は金と並び、価値ある金属として古くから重宝されてきました。

柔らかくて加工しやすく、しかももっとも光の反射率が高い金属である銀は、美術品や工芸品の素材として優れていましたし、白く輝くその様子は宝飾品としても高い価値を有していたのです。またヨーロッパでは銀食器の所有が一種のステータスとなっており、古来から王侯貴族に愛されていました。

さらに希少価値が高い貴金属でありながら、金に比較すれば産出量が多いため、決済に用いる貨幣としても使われてきたのです。

特に中世ヨーロッパでは、産出量の関係から金、銀ともに不足気味であり、鉱山の重要性は現代の比ではありませんでした。15世紀にドイツの銀鉱山を押さえたことで大富豪となったフッガー家のような例もあります。

この時代は、銀の価値が経済に大きな影響を持っていたのです。しかし、16世紀に起こった2つの変化によって、銀の価値が大暴落することになります。

 

大量の銀が起こした「価格改革」

銀の価格が暴落した原因の1つは、採掘量の大幅な増加でした。

15世紀から16世紀にかけてヨーロッパにとって新天地となったアメリカ大陸では、多くの鉱山が発見されました。特に南米のメキシコ、ペルー、ボリビアでは大量の貴金属や宝石が産出しています。同時に鉱石から貴金属を抽出する新技法(水銀アマルガム法)が発明されました。

現地の住民を労働者にして鉱山を大規模に採掘し、新技法で効率的に精製することで、銀の大量生産が可能になったのです。

有名なのは現ボリビアのポトシにあるセロ・リコ銀山で、ここで産出・精錬された大量の銀が支配していたスペインに向かって流れ込むようになります。

16世紀のスペインはイタリアなど近隣国と戦乱に明け暮れていたことと、王室貴族の散財によって、経済的に大変危機的な状況でした。そんなスペインにとってポトシから届く銀は、生命線と言っても過言ではなかったでしょう。

しかし、この大量の銀が流通したせいで銀の価値が暴落し、スペインは急激な物価の上昇に見舞われます。さらにこの銀はスペインから流出して、ヨーロッパ全体にも広がっていき、物価高騰を起こしました。

この当時ヨーロッパ全体の人口が急激に増加していたことも、物価の上昇に拍車をかけたといわれています。

銀の大量流入と、全体的な人口増加による品不足。この2つの原因によって、物価は3倍から5倍にまで高まりました。

これが「価格革命」と呼ばれるヨーロッパ全域に起こったインフレーション事件です。

 

価格改革が導いた封建社会の「解体」と近代経済の「創造」

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銀の値崩れと人口増加による物価高騰は、封建領主である貴族層に大ダメージを与えました。

貴族たちの収入は、金額が固定されている地代が中心だったからです。同じ金額が入ってきても、インフレの最中ではその価値が大きく下がってしまいます。

結果として、封建制によって経済的な基盤をつくっていた伝統的な貴族は、一気に力を失っていきました。

逆に新大陸との交易によって台頭し始めた資本主義的な企業家にとっては、膨大な利益に繋がります。物価高騰による好況で、産業や工業はさらに発達していきました。

このようにして、価格改革は古い中世封建社会を「解体」し、近代的な経済発展の基盤を「創造」する原因の1つとなったのです。

 

アメリカ大陸というヨーロッパ諸国にとっての新天地は、それまでの中世社会を揺るがすにふさわしい大きな発見でした。銀を代表とする貴金属の大量採掘を可能とした新しい鉱山の獲得もその1つです。

大量の銀の流入は、当時の人口増加や商業革命と影響し合い、中世社会を「解体」し、近代経済社会を「創造」する流れを作っていきました。

新たな発見は古いモノを解体し、次の時代を創造するきっかけになるのです。

 

【参考文献/サイト】
・宮崎正勝編著(2002)『世界史を動かした「モノ」事典』日本実業出版社.
・桜井弘(1997)『元素111の新知識 引いて重宝、読んでおもしろい』講談社.
・世界史の窓「価格改革」http://www.y-history.net/