新ワールドトレードセンターの再建築に学ぶ、破壊の後の解体と創造の難しさ


ワールドトレードセンターの破壊とその後の再建について

img_groundzero01出典:http://www.dailymail.co.uk

アメリカ合衆国、地価や賃料が高騰し高層ビルが所狭しとそびえ立つニューヨークには「グラウンド・ゼロ」と呼ばれる人々が祈り、嘆き悲しむ場所が存在していました。

2001年9月11日の「アメリカ同時多発テロ事件」、通称9.11テロでイスラム系国際テロ組織アルカイダのテロリストのツインタワーへの攻撃によって破壊された世界貿易センタービルの跡地です。3,000人以上が亡くなったこのテロの後、2002年5月まで遺体の捜索が続けられていましたが、瓦礫を含む全てが撤去され完全に解体され、ワールドトレードセンターは再建に向けて動き出しました。

2002年に始まったワールドセンターの再建はデザインコンペによって集まった案により順調なスタートを切ったかのように見えましたが、リーマンショックによる混乱や中断を経て当初の予定より大きく遅れています。

2017年現在、既に2つのビルが完成しています。完成済み、建設済み、合わせて6つのビルがあり、そのうち「1ワールドトレードセンター」と「4ワールドトレードセンター」が完成し開業しています。

 

旧ワールドトレードセンターの歴史から解体と創造の難しさを学ぶ

img_radio01出典:http://untappedcities.com/

破壊されたワールドトレードセンターの歴史は常に複雑な感情や思惑が入り乱れる場所でした。

ワールドトレードセンターの建設案は1900年代前半に遡ります。ワールドトレードセンターとその関連商業施設も含めたコンプレックスが存在する前にも、実は「ラジオ・ロウ」と呼ばれる商業圏が存在していました。そこには、電気部品を扱うエリアや倉庫街、そしてアラブ系の不法移民街、大きな駅のターミナルビルなど、混沌としながらも活気だつ商業交易圏とローカルな生活圏があったのです。

第二次世界大戦直後から国際交易が増大し、この土地をアメリカの国際貿易の拠点にすべくワールドトレードセンターの建設計画が立てられました。ニューヨークの中心で既に生活があるこの土地にこれだけ大きな計画の複合型商業施設を建設するには当然大きな困難が伴います。

既にある商業圏を解体し、生活を壊さないと約束し保証を行いながら立ち退きを実施することは経済面以上に感情面のハードルが存在します。ハドソン川が流れるこの土地を更地にする際は水のコントロールとの戦いも存在しました。建設予定地に水が浸水することを避けなければいけない為、大きな防水構造を施した基礎を設置する必要がありました。

また、建設のさなかにも人々の足となる鉄道の運行を止める事はできません。解体をするということはとても複雑に絡まった紐を解きほぐすような事なのです。

解体もさることながらその後の創造も困難を伴います。建築自体のデザインも様々な思惑や感情の渦に巻き込まれ、紆余曲折を経て決定されました。

テナント用のスペースを多く確保できるデザインにしたいというビジネス側の思惑や、機能性を損なってもシンボリックなデザインにしたいというデザイナーの野心、そして良くも悪くも街のシンボルともなり得る巨大なビル群の周囲に生活する人々の好奇や不安が渦巻く中、最終的に機能性を保ちつつも多くのスペースを確保できる約110階建てのツインタワーを中心とするデザイン案が採用され、1970年代に完成しました。

国際貿易の中心としたかった当初の思惑とは異なり入居した企業の中でも多かったのは金融機関や証券会社でした。モルガン・スタンレーなどの名立たる企業が入居し、ウォール街と隣接するこの土地は「繁栄するマンハッタンの象徴」になりました。

ローカルな土地だったこの地は1世紀にも満たない期間の中で様相が激変したのです。

 

新ワールドトレードセンターに求められた創造のハードル

At 1,340 feet, Two World Trade Center will appear almost as tall as its neighbor, One World Trade, minus its spire. Looking up from the memorial plaza, the building will appear “very straightlaced,” Ingels says. “Still, as an echo of the diversity of the north and east facades, the stepping in and out actually creates the illusion of a tower that leans in toward One World Trade.”出典:https://www.wired.com/

複雑な歴史を持ち「アメリカの象徴」とも言える、ワールドトレードセンターは実は1993年にも反米組織からテロの標的になりました。そして、とても痛ましい9.11事件を経てこの土地は世界で最も複雑な土地の1つになりました。

混沌の渦の中に100年存在した後に、アメリカ国民、市民、そして遺族の悲しみが加わったこの土地に新しく巨大な建築を行う事は並大抵のプレッシャーでは無いことは想像に難くありません。

商業価値を優先しビル群としての再建を目指す施工主とメモリアルな土地にしたいと願う感情がぶつかった結果、当初予定されていた「フリーダムタワー」というモニュメント性が高い創造的なアイデアは大幅な修正を余儀なくされました。

最終的に2014年に完成し、西半球で最も高層なオフィスビルが再びそびえ立つことになりました。常に経済が優先されてきた、この土地でまたも創造に制限を加えたのはやはり経済的な思惑でした。

現在建築中の「2ワールドトレードセンター」も同様の問題を抱えています。

2008年のリーマンショックを経て、テナントの招致に苦労した背景があるこの計画においては、入居するテナントの意向もデザインに大きく反映されます。21世紀フォックスが入居する予定の2ワールドトレードセンターは1ワールドトレードセンターのデザインにも近い「いかにも金融機関が入居しそうな」デザインから大幅に変更が行われ、2015年に新たな案が公開されました。

ブロックをずらして積み上げたようなデザインは斬新で、各ブロック毎に空中庭園を備える自由なデザインはついにこの土地に「真に自由で創造的な建築」をもたらしたのかもしれません。
 

The building’s terraces, facing east, look down on the yard of St. Paul’s Chapel, the oldest surviving church building in Manhattan. Ingels wants the topmost terrace to adjoin a Fox screening room, creating an event space with views from more than a thousand feet above the city. “It’ll be pretty epic,” Ingels said.出典:https://www.wired.com/

このように解体と創造とは、複雑な状況を理解し、打開したり調整するような「解決策」であることが求めらるのです。

建築をこのような視点で考えることは常に学びの機会になります。