インドの神話にみる「解体」と「創造」の輪廻


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世界各国で語り継がれている神話はさまざまな神々や英雄が描かれ、エンターテイメントとしても面白い物語です。しかし、同時に世の真理を喩え話で教えてくれるのも神話の特徴

例えば日本で当たり前に定着している輪廻転生といった概念は古代インドのバラモン教やヒンドゥー教に原点があります。そして寿命を迎えた世界の「解体」と新しい世界の「創造」を謳っているのもヒンドゥー教に伝えられる神話に見られる思想です。

 

数多くあるインド神話

インドに伝わる神話は非常に多くの流れがあり、これが正しいと断言できるものはないと言ってもいいでしょう。

古くは紀元前1200年頃に成立したといわれている聖典『リグ・ヴェーダ』や、インドの代表的な叙事詩である『マハーバーラタ』『ラーマーヤナ』に描かれた英雄譚などに多くの神話がありますが、体系化されているわけではありません。それら神話はインドに広がる宗教の総称であるヒンドゥー教を筆頭にバラモン教、仏教、数ある土着宗教によっても語られ、信仰の土台となりました。

長い歴史の中、互いに影響を与え合い再解釈された神々は、現在ヒンドゥー教においてある程度体系化されています。

 

ヒンドゥー教の三柱の最高神

ヒンドゥー教は日本の神道と同じ多神教です。その多くの神々のうち、三柱の最高神が存在します。

まずはブラフマー。
もともと宇宙の根本原理であるブラフマンを神格化した神様で、宇宙を創造したといわれています。またあらゆる敵を滅ぼす武器を持っていることから、悪霊を鎮める守護神としても信仰されている神様です。日本では梵天という名前で知られています。

 

次にヴィシュヌ。
古くは太陽の光を神格化した存在で、たった3歩で世界を行き来すると言われました。世界の維持を司る神様で、同時に様々な英雄に姿を変えてこの世に現れ、人々を救うとされています。英雄譚が最も多い神様で、ヒンドゥー教では仏教の開祖である仏陀もヴィシュヌ神の化身であるといいます。

 

最後はシヴァ。
古い神話の中では暴風雨を象徴するルドラという名の神様で、風水害を呼ぶと同時に豊かな水をもたらして農作物を育てるという二面性を持っています。シヴァ神と名が変わっても性質は受け継がれ、破壊神であると同時にガンジス川を生み出す水神であり、舞踊の神でもあります。その偉大な力からブラフマー・ヴィシュヌと並ぶ最高神になりました。

ちなみに日本の七福神である大黒天はシヴァ神と日本神話のオオクニヌシが一体化して生み出された神様です。この三柱の神はそれぞれが最高神にふさわしい絶大な力を持っていますが、同時に大きな役割を分け合っています。

それは創造と維持、そして破壊からさらなる創造という世界の流れです。

 

創造、維持、破壊からまた創造。三大神の役割分担

ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァの関係は、世界の創造と破壊を表しています。
創造神であるブラフマーが生み出した世界を、ヴィシュヌ神が維持し、寿命が尽きた世界は破壊神であるシヴァが「解体」します。そして、その後ブラフマーがまた新しい世界を「創造」するのです。

ヒンドゥー教は輪廻転生を教義とした宗教ですから、この破壊と創造の思想も輪廻と同じく廻る世界を表しているのでしょう。またシヴァは破壊神でありながらヴィシュヌと並んでもっとも信者が多い神様です。前述した前身であるルドラ神も同じように、シヴァ神は破壊だけではなく創造をもたらすことから、とても人気があるのです。

つまり三大神のあり方からもわかるように、インドに伝わる神話は破壊と創造がセットになっている教えが多いのです。このようにヒンドゥー教に伝わる三大神は、創造、維持、破壊、そしてさらなる創造という廻る世界を象徴しています。

それは同時に破壊を悪いものと考えていないことを表していると言えるでしょう。考えてみれば学校で習った食物連鎖のように、自然界は常に「創造」と「解体」そして「創造」の繰り返しです。

古きもの、活力を失ったもの、寿命が尽きたものを「解体」して、「創造」し直すことで新しい命を吹きこむ。インドの最高神が示しているのは、まさにこの世の理なのかもしれません。
もし興味が湧いたら、ぜひインドの荒唐無稽ながらも面白い神話に目を通してみてくださいね。

 

【参考サイト・文献】
■上村勝彦(2003)『インド神話ーマハーバーラタの神々』筑摩書房.
■ウィキペディアの執筆者.“インド神話”. ウィキペディア日本語版. 2016-04-28.
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